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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)975号 判決 1968年10月18日

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人成田篤郎の上告理由四について。

原判決は、本件譲渡担保契約が信義則にもとり公序良俗に反する旨の上告人の主張に対し、本件譲渡担保契約の目的たる本件建物、本件建物内に設置されている湯壷および右建物の敷地のうち、本件建物と右敷地とを合せたときの価額は昭和二五年一〇月現在において約五五万円程度であるから、前記湯壷の当時の時価を除いても(右湯壷の時価を認めるに足る証拠はない)、その頃前記担保物件は優に当時の被担保債権の三倍をこえる価額を有していたことは明らかであるが、その一事をもつては、その契約が公序良俗に反するとはいえず、被上告人富沢が上告人を困窮におとしいれて本件物件を奪取することを策謀して右契約を結んだことを認めることができないから、右契約をもつて信義則にもとり公序良俗に反するものとはいえないとして、上告人の主張を排斥している。

しかし、譲渡担保契約が暴利行為により公序良俗に違反するかどうかの判断に当つては、特段の事情のないかぎり、その契約により担保される債権の額とその譲渡担保の対象となつた物件の価格を確定して、これを比較検討を加えたうえで、右違反の有無を決すべきところ、特段の事情を判示することなく、ただ単にその対象となる物件の一部の価格と前記債権の額とを確定して、これを比較検討しただけで、本件譲渡担保契約が公序良俗に違反しない旨を判示した原判決は、法令の解釈、適用をあやまつたものというべきである。

もつとも、原判決は、前記湯壷の時価を認めるに足る証拠はない旨を説示するけれども、本件譲渡担保契約においては、特段の事情のないかぎり物理的な存在のみを指すものとは容易に解しがたく、原審としては、すべからく、右湯壷が甲第七号証の記載中のどのようなものを指すのかを明らかにしたうえで、その時価を算定すべきであつたのに、この点になんらの考慮を払わないで、右湯壷の時価の証明がないと説示した原判決は、結局、審理不尽・理由不備の違法をおかしたものといわざるをえず、したがつて、この点の違法をいう論旨は理由があるというべきである。

よつて、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、原判決を破棄して、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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